① なぜ「2体問題」は難しいのか
問題の本質
🤔
1体 vs 2体:何が違うか
1体問題
物体が1つ → 運動方程式が1本 → そのまま解ける
ma = F だけ。未知数も加速度だけ。シンプル。
2体問題
物体が2つ → 運動方程式が2本 → 連立 + 拘束条件が必要
m₁a₁ = F₁ と m₂a₂ = F₂ の2本。さらに2つの運動が互いに依存し合う「拘束」がある。
難しさの核心
「内力(物体間の力)」と「外力」を区別できるか
内力はニュートン第3法則で大きさ等しく逆向き。これを正しく扱えるかが全て。
📋
典型的な出題パターン
パターン①
台車 + 物体(接触・分離)
台車の上に物体が乗り、摩擦力で相互作用。最終的に同じ速度になるまで or 分離するまで。
パターン②
バネで繋がれた2物体
バネの弾性力が内力。振動問題と融合することも多い。
パターン③
糸・滑車を介した2物体
糸の張力Tが内力。滑車を介すると方向が変わる。アトウッドの機械が代表例。
パターン④
衝突・爆発(一瞬の力積)
衝突時間が極短 → 運動量保存が最強ツール。反発係数との組み合わせ。
② 微積物理で捉える運動方程式の本質
基礎理論
📐
ニュートンの運動方程式を微積で読む
▌ 運動方程式の本質
m · d²x/dt² = F(x, dx/dt, t)
▌ 2体それぞれの方程式
m₁ · ẍ₁ = F₁(外力) + f(内力 1→2)
m₂ · ẍ₂ = F₂(外力) - f(内力 2→1)
内力は大きさ等しく逆符号(作用反作用)
⭐ 微積で解くメリット
「等加速度の公式を暗記」ではなく、方程式を積分して自然に導く。どんな力の形にも対応できる汎用スキル。
🔑
2体問題を解く3つの武器
武器① 重心運動
2本の方程式を足す → 内力が消える
(m₁+m₂)·ẍ_G = F₁+F₂(外力の和)
重心は外力だけで動く!内力を消去できる強力な武器。
重心は外力だけで動く!内力を消去できる強力な武器。
武器② 相対運動
2本の方程式の差を取る → 換算質量で1体問題に帰着
μ·ẍ_rel = f_rel (μ = m₁m₂/(m₁+m₂) : 換算質量)
2体→1体に落とす最強の変換。
2体→1体に落とす最強の変換。
武器③ 保存則
運動量保存・エネルギー保存で未知数を減らす
微分方程式を解かなくても「積分した結果」として保存則が使える。時間の情報が不要なときに最速。
③ 重心運動(Center of Mass)完全解説
最重要概念
⚖️
重心の定義と性質
▌ 重心位置
x_G = (m₁x₁ + m₂x₂) / (m₁+m₂)
▌ 重心速度
v_G = (m₁v₁ + m₂v₂) / (m₁+m₂)
= 全運動量 / 全質量
▌ 重心の運動方程式
(m₁+m₂) · ẍ_G = F_ext(外力の和)
内力は自動的に消える。重心は「全体を1つの質点とみなした」ときの運動をする。
🎯
重心系で何が起きるか
外力ゼロのとき
重心は等速直線運動(または静止)を保つ
F_ext = 0 → ẍ_G = 0 → v_G = const
→ 全運動量保存!運動量保存則の微分形が重心の方程式。
→ 全運動量保存!運動量保存則の微分形が重心の方程式。
重心系(重心を原点とする系)
m₁v₁' + m₂v₂' = 0 が常に成立
重心系では2つの物体の運動量の和がゼロ。弾性衝突を重心系で見ると速度が反転するだけ!
入試での使い方
「台の上で物体が動く」問題の王道
床との摩擦なし → 外力水平成分ゼロ → 重心x座標は不変。これだけで台の変位が求まる。
💡
重心を使う典型問題
問題タイプ①
摩擦のない床の上の台車 + 人
人が台の端から端に移動 → 重心不動 → 台の変位 = -(人の質量/台の質量)× 人の移動量
問題タイプ②
爆発・分裂問題
爆発前後で外力がなければ重心速度不変。爆発後の各速度を重心速度から計算。
問題タイプ③
2体の衝突後の運動
重心速度 = 衝突前後で不変(外力なし)。重心系で解いて実験室系に戻す。
④ 相対運動と換算質量(μ)── 2体→1体へ
変換の魔法
🔄
換算質量の導出
▌ 2本の方程式の差を取る
m₁ẍ₁ = f , m₂ẍ₂ = -f
ẍ₁ - ẍ₂ = f·(1/m₁ + 1/m₂) = f/μ
μ · ẍrel = f(内力)
▌ 換算質量(reduced mass)
μ = m₁m₂ / (m₁+m₂)
「調和平均の半分」。m₁≫m₂のとき μ≈m₂(軽い方の質量)。
m₁=m₂=m のとき μ=m/2。
m₁=m₂=m のとき μ=m/2。
⭐ 換算質量の意味
2体問題の「相対運動」は、質量μの1体問題と全く同じ形になる。バネ振動・万有引力問題すべてに適用可能。
📊
重心運動 + 相対運動の分解
| 量 | 重心運動 | 相対運動 |
|---|---|---|
| 座標 | x_G = (m₁x₁+m₂x₂)/M | x_rel = x₁ - x₂ |
| 速度 | v_G = P_total / M | v_rel = v₁ - v₂ |
| 質量 | M = m₁ + m₂ | μ = m₁m₂/M |
| 運動方程式 | Mẍ_G = F_ext | μẍ_rel = f |
| エネルギー | ½MV_G² | ½μv_rel² |
⭐ 全運動エネルギーの分解
K = ½MV_G² + ½μv_rel²
重心の運動エネルギー + 重心系での運動エネルギー
重心の運動エネルギー + 重心系での運動エネルギー
⑤ 保存則の使い方 ── 微分方程式を解かずに勝つ
最速の解法
📦
運動量保存則
▌ 運動量保存の条件
外力の和 = 0 ⟹ d(m₁v₁+m₂v₂)/dt = 0
m₁v₁ + m₂v₂ = const
「外力ゼロ」は厳密に0でなくてOK。
衝突問題では「衝突の極短時間では外力の力積≪内力の力積」なので実質成立。
衝突問題では「衝突の極短時間では外力の力積≪内力の力積」なので実質成立。
使う場面
衝突・爆発・分裂の前後比較
時間情報が不要。始状態と終状態だけで解ける。
落とし穴
「外力ゼロ」を確認せずに使うと間違える
床からの垂直抗力・重力が釣り合っているかチェック必須。斜面上では水平方向のみ保存。
⚡
エネルギー保存則と反発係数
▌ 弾性衝突(e=1)
½m₁v₁² + ½m₂v₂² = ½m₁v₁'² + ½m₂v₂'²
運動量保存と連立 → 衝突後速度が一意に決まる
▌ 反発係数(はねかえり係数)e
e = |v₂' - v₁'| / |v₁ - v₂|
= 分離速度 / 接近速度
e=1: 弾性衝突 e=0: 完全非弾性(一体化) 0<e<1: 非弾性衝突
⚠️
入試頻出ミス:反発係数の向きに注意
「接近」と「分離」は相対速度の符号で定義。衝突軸方向のみに適用。斜め衝突は法線・接線成分に分解してから使う。
⑥ 2体問題 解法フローチャート
実戦手順
🗺️
基本解法ロードマップ
1
図を描いて系を整理
2つの物体・全ての力(外力・内力)を矢印で書く。座標軸(正の向き)を決める。
↓
2
各物体の運動方程式を立てる
m₁a₁=F₁(内力+外力)、m₂a₂=F₂(内力+外力)の2本。内力は作用反作用で逆符号。
↓
3
拘束条件を書く
「糸でつながれている → a₁+a₂=0」「同じ加速度 → a₁=a₂」など。未知数を減らす。
↓
4
解法を選ぶ(足す or 引く or 保存則)
足す→重心運動で内力消去 引く→相対運動・換算質量 保存則→積分済みの結果を使う
↓
5
必要なら微分方程式を積分する
a = dv/dt → v = ∫a dt。定数は初期条件で決める。等加速度の公式は積分の結果と確認。
↓
6
答えを検証(次元・極限・保存則チェック)
単位が合うか・m₂→0の極限で1体問題に帰着するか・エネルギーが減っていないか確認。
📌
代表的な解法パターン別まとめ
台車 + 物体(摩擦力が内力)
① 2本の方程式 → ② 足して重心加速度 → ③ 引いて相対加速度 → ④ 積分
最終速度は運動量保存。最大変位はエネルギー保存 or 相対速度=0の瞬間。
アトウッドの機械(糸・滑車)
拘束:a₁ = -a₂ = a(滑車で逆向き等加速度)
a = (m₁-m₂)g/(m₁+m₂) ← 重心の方程式そのもの。換算質量 μ = m₁m₂/(m₁+m₂)
バネで繋がれた2物体
相対運動 = 換算質量μ のバネ振動(角振動数 ω=√(k/μ))
重心は外力で動き、相対運動は独立してSHM。両者を重ね合わせると各物体の運動が出る。
衝突問題
運動量保存 + 反発係数(or エネルギー保存)の2式で v₁', v₂' を求める
弾性衝突の結果:v₁'=(m₁-m₂)v₁/(m₁+m₂)、v₂'=2m₁v₁/(m₁+m₂)。m₁=m₂なら速度が入れ替わる!
⑦ 入試頻出テーマ&大学別出題傾向
受験対策
東工大 頻出
東京工業大学
換算質量・重心系での弾性衝突・バネ連結振動。微積分を前提とした記述形式。
S難度
東大 頻出
東京大学
台車上の運動・重心不動の活用。複数フェーズを論述で繋ぐ総合問題。
S難度
京大 頻出
京都大学
衝突の繰り返し・エネルギー損失の累積計算。漸化式を立てて解く形式。
S難度
医学部
旧帝大 医学部
2物体の衝突・反発係数の活用。計算量は多いが発想は標準的。
A難度
早慶理工
早稲田・慶應
台車+物体の標準問題。運動量保存とエネルギー保存の組み合わせ。
A難度
共通テスト
共通テスト
運動量保存・弾性衝突の速度計算。グラフ読み取りと組み合わせ。
B難度
⑧ よくあるミス TOP5 と対策
失点防止
❌
ミスと対策
ミス① 内力の向きを間違える
「作用反作用は必ず逆向き」を忘れてどちらも+方向で書く
対策:内力fをm₁の式に+fと書いたら、m₂の式は必ず-f。または「内力の合計は0」で確認。
ミス② 外力があるのに運動量保存を使う
床との摩擦・重力の水平成分を見落とす
対策:保存則を使う前に「外力の方向成分がゼロ」を必ず確認。斜面問題は要注意。
ミス③ 拘束条件の設定ミス
糸でつながれているのに a₁=a₂ と書く(滑車なら逆符号)
対策:滑車がある場合は糸の長さ一定から微分して拘束条件を導く。直感に頼らない。
ミス④ 反発係数の分子分母を逆にする
e = 接近速度/分離速度 と書いてしまう
対策:「e = 分離/接近」。衝突後の相対速度を衝突前の相対速度で割る。定義に戻って確認。
ミス⑤ 「同じ速度になる」条件を忘れる
摩擦のある台車問題で「いつ相対速度=0になるか」を見落とす
対策:v_rel = 0 が境界条件。相対運動の方程式を積分して、v_rel=0になるtを求める。
🏆
マスターへの道:学習ステップ
L1
1体問題の微積物理を完成させる
F=ma を積分して v, x を求める練習。等加速度は「公式暗記」でなく「積分で導く」癖をつける。
↓
L2
アトウッドの機械で2体の運動方程式に慣れる
最もシンプルな2体問題。拘束条件の扱いを体で覚える。
↓
L3
重心・相対運動の変換を繰り返し練習
方程式を足す・引くだけで見通しが激変することを実感する。
↓
L4
衝突問題で保存則のコンビネーションを磨く
運動量保存 + 反発係数の連立をスラスラ解けるように。
↓
L5
過去問(東大・東工大・京大)で総合演習
複数フェーズ・複数の解法を組み合わせる入試レベル問題に挑戦。
2体問題マスターの核心:見える世界が変わる理由
🔬
微積で立てれば全て同じ形
どんな力でも F=ma を積分するだけ。公式の丸暗記が不要になる。
⚖️
重心と相対に分ければ必ず解ける
どんな複雑な2体問題も「重心の運動」+「相対運動」の2つに分解できる。
♾️
換算質量は大学物理・量子力学にも直結
水素原子模型・2体量子系など、大学以降も同じ概念が登場する。今マスターする価値は絶大。
💎
保存則は「積分済みの方程式」
エネルギー保存・運動量保存は運動方程式を積分した結果。原理から理解すれば適用条件が自然に分かる。
🎯
入試最頻出 = 必ず出ると思っていい
東大・東工大・京大・医学部すべてで毎年のように登場。確実に得点源にできる。
🚀
ここをマスターすれば物理の見え方が変わる
「難しい問題」が「解き方が見える問題」に変わる。これが東工大物理出身者が断言できる理由。
「力 → 加速度 → 速度 → 位置」という因果の流れ